定額残業代に対して厳しい判例が相次いでいます。定額残業代に厳しい判例が相次いでいる理由は、最高裁補足意見(櫻井裁判官補足意見:平成24年3月8日)の影響とも言われています。弊所でも顧問先との協議のうえ、定額残業代制度での運用をすすめる場合があります。今回の櫻井裁判官の最高裁補足意見により、定額残業代制度についての見直しは不可欠であると感じております。

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裁判官櫻井龍子の補足意見は、次のとおりです(以下は一部抜粋)。本件に関し、労働基準法等の趣旨を踏まえ若干指摘しておきたい点がありますので補足意見を付しておきます。

1 労働基準法37条は、同法が定める原則1日につき8時間,1週につき40時間の労働時間の最長限度を超えて労働者に労働をさせた場合に割増賃金を支払わなければならない使用者の義務を定めたものであり,使用者がこれに違反して割増賃金を支払わなかった場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられるものである(同法119条1号)。

このように、使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは、罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるものであるため、時間外労働の時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額が明確に示されていることを法は要請しているといわなければならない。

本件の場合、その判別ができないことは法廷意見で述べるとおりであり、月額41万円の基本給が支払われることにより時間外手当の額が支払われているとはいえないといわざるを得ない。

便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、その場合は、その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。

さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。本件の場合、そのようなあらかじめの合意も支給実態も認められない。

2 さらに、原審は,本件では手取額を大幅に増加させることとの均衡上変則的な労働時間が採用されるに至ったもので合理性を有するとして、個々の労働基準法の規定や同法全体の趣旨に実質的に反しない限りは私的自治の範囲内のものであるとしているが、契約社員としての月額41万円という基本給の額が、大幅に増額されたものである,あるいは格段に有利な給与設定であるとの評価は,原審の認定した事実関係によれば、派遣労働者である契約社員という立場を有する上告人の給与については妥当しないと思われる。

確かに、41万円という額は、正規社員として雇用される場合の条件として被上告人から提示された基本給月額と単純に比較すれば,、万円余り高額ではあるものの,上告人は契約社員であるため正規社員と異なり、家族手当を始めとする諸手当,交通費,退職金は支給されず,毎年度の定期昇給も対象外であるなど,契約内容の全体としては、して格段に有利な給与設定といえるほどのものとは思われない。

3 労働基準法の定める労働時間の一日の最長限度等を超えて労働しても例外的に時間外手当の支給対象とならないような変則的な労働時間制が法律上認められているのは、現在のところ、変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制があるが、いずれも要件、手続等が法令により相当厳格に定められており、本件の契約形態がこれらに該当するといった事情はうかがわれない。近年、雇用形態・就業形態の多様化あるいは産業経済の国際化等が進む中で、労働時間規制の多様化,柔軟化の要請が強くなってきていることは事実であるが、このような要請に対しては、長時間残業がいまだ多くの事業場で見られ、その健康に及ぼす影響が懸念されている現実や、いわゆるサービス残業、不払残業の問題への対処など、残業をめぐる種々の状況も踏まえ、今後立法政策として議論され、対応されていくべきものと思われる。


事件番号  平成21(受)1186
●事件名  損害賠償・残業代支払請求,仮執行による原状回復請求申立て事件
●裁判年月日 平成24年03月08日
●法廷名最高裁判所第一小法廷
●裁判種別 判決
●結果 その他

●原審裁判所名 東京高等裁判所
●原審事件番号 平成20(ネ)2995
●原審裁判年月日  平成21年03月25日

●判示事項
基本給を月額で定めた上で月間総労働時間が一定の時間を超える場合に1時間当たり一定額を別途支払うなどの約定のある雇用契約の下において、使用者が、各月の上記一定の時間以内の労働時間中の時間外労働についても,基本給とは別に、労働基準法(平成20年法律第89号による改正前のもの)37条1項の規定する割増賃金の支払義務を負うとされた事例。

●裁判要旨
基本給を月額41万円とした上で月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり一定額を別途支払い、140時間未満の場合に1時間当たり一定額を減額する旨の約定のある雇用契約の下において、次の(1),(2)など判示の事情の下では、労働者が時間外労働をした月につき、使用者は、労働者に対し、月間総労働時間が180時間を超える月の労働時間のうち180時間を超えない部分における時間外労働及び月間総労働時間が180時間を超えない月の労働時間における時間外労働についても、上記の基本給とは別に、労働基準法(平成20年法律第89号による改正前のもの)37条1項の規定する割増賃金を支払う義務を負う。 (1) 上記の各時間外労働がされても、上記の基本給自体が増額されるものではない。 (2) 上記の基本給の一部が他の部分と区別されて同項の規定する時間外の割増賃金とされていたなどの事情はうかがわれない上、上記の割増賃金の対象となる1か月の時間外労働の時間数は各月の勤務すべき日数の相違等により相当大きく変動し得るものであり、上記の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と上記の割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。 (補足意見がある。)

●参照法条
労働基準法32条,労働基準法(平成20年法律第89号による改正前のもの)37条1項

これまでは「定額残業代」に関する裁判例は就業規則が整備されていない事案がほとんどでした。しかし最近の裁判例では、就業規則、労働契約書は整備され「定額残業代」を盛り込んでいても次の判例のとおり「定額残業代」が否認されています。

●アクティリンク事件(東京地判 平成24年6月29日)
月30時間の割増賃金相当額として支給する営業手当は時間外労働手当とみなすことはできない】

●ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁:平成24年10月19日)
【調理人・パテイシェに月95時間分に相当する時間外労働割増賃金として支払っていた職務手当を45時間相当額の定額残業代として認めない】

今後も「定額残業代」制度については、厳しい判断がなされると思います。現在、定額残業代制度を運用している会社は注意を要する必要があります。