社会保険労務士の渋谷区の高山英哲です!

高山英哲こんにちは。

今回は、時間外労働の限度基準を超えた固定残業手当(業務手当)が、違法になるとは認められないとされた事例です。

二審(高等裁判所)
X事件
平成26()5178号、平成27()5624
東京高等裁判所 平成28127
X社事件(東京高裁 平28年1月27日判決)PDF(Adobe Acrobat)
【厚生労働省】時間外労働の限度に関する基準PDF(Adobe Acrobat)

なぜ、違法になるとは認められないのか?

一部の会社では、時間外労働の限度基準を超えて運用されています。。

あなたの会社では、固定残業(定額残業)制度は導入していますか?

時間外労働の限度基準は遵守されていますか?

そこで今回は、ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件と比較しながらX事件を、私たちで一緒に考えていきましょう。

 X社ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件
時間外の限度基準45時間を超えている45時間を超えている
時間外労働時間月70時間の固定残業手当
月100時間の固定深夜割増手当
月95時間の固定残業手当
超過分(差額)支給不支給
判決違法になるとは認められない月45時間の固定残業手当の対象と解釈するのが相当

 

そもそも固定残業代制とは?

固定残業代制は、法令上の概念・制度ではありません

マジすっかぁー? 遠くから、そんな声が聞こえてきます。

名称だって、固定残業代制のほか、定額残業代制、定額残業手当制度など統一されたものがあるわけでは、ないんですよ。

えっ。。。? またまた、声が聞こえてきました。

ここは、押さえてくださいね。

通常「固定残業代制」とは、一定時間分の時間外・休日・深夜労働に対して割増賃金を、毎月定額で支払う仕組みで運用されています。

そもそも、固定残業代制は、法令上の概念・制度ではないことから、労働基準法等の強行法規に抵触したり、公序良俗違反等に該当したりしない限り、就業規則を含む労働契約により当事者間で自由に定めることができます。

「自由に定めることができる」。ここが紛争が絶えない理由です。

それでも、固定残業代制度の導入に、一定の意義が認められています。

理由は次の3点です。

①人件費の事前把握や計画的執行が可能となること

②時間外労働の精算に係る事務作業を削減できること

③残業を行わない労働者も一定額の収入を得られること

固定残業代制には、一般的に2つの型があります。

①あらかじめ割増賃金分を固定残業分として基本給に組み込んで支給するタイプ(組み込み型)

②基本給とは別に定額の手当を支給するタイプ(手当型)

その内容、仕組みは①時間外労働に限って適用するもの②深夜・休日労働についても対象とするものです。

それとは別に、管理監督者に適用することを前提とした、深夜割増手当のみを対象とするものが出てきています。

繰り返しますが、固定残業代制は法令上の概念・制度ではありません。

名称については、固定残業代制のほか、定額残業代制、定額残業手当制度など統一されたものがあるわけではありません。

ここは、重要なポイントです

時間外労働の限度基準を超えた固定残業手当の過去の判例は?

固定残業代制の定義は、理解できましたね?

続いて、過去の判例をチェックしていきましょう。

時間外労働の限度基準を超えた固定残業手当の過去の判例で、すぐ思いつくのは、ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件[札幌高裁 平24.10.19判決】です。

札幌高裁は、月95時間の固定残業代を労働基準法第36条上限の月45時間の固定残業手当の対象と解釈するのが相当であるしています。

これは、固定残業手当の対象を限定的に解釈したものです。

しかし、固定残業代の対象を超える時間外労働(月95時間を越える時間外労働)が発生した場合にも、会社は、従業員に対して当該超過部分についての時間外賃金を支払っていません。

あなたの会社では、いかがですか?

その制度、チョット待ったぁー!と叫びたくなります。

固定残業代制の紛争が絶えない理由は、当該超過部分(差額)を支払っていないことです。

理解できますよね。

私たち、このポイントは、押さえなくてはいけません。




X事件の判決チェックポイント 残業代を算定する基礎となる月額賃金の額

それでは、冒頭のX事件の判決チェックポイントです。

X社の給与規程には、時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当および休日深夜勤務手当の代わりとして固定残業手当(業務手当が支払われる旨規定されている。

控訴人兼附帯被控訴人は、月45時間を超える時間外労働を予定した定額の割増賃金の規定は全部または一部無効である等と主張し、X社に対し、在職中の時間外、休日、深夜労働等についての割増賃金および付加金の支払いを請求した。

原審では、控訴人兼附帯被控訴人の請求を一部認容し、その余を棄却しました。

控訴人兼附帯被控訴人は、前日の労働が翌日の休日に及んだ場合の休日に及んだ部分の時間についての休日の割増率に基づく割増賃金等の請求を追加して請求を拡張した。

一方、X社は、原審判決後、2度にわたり弁済を行い、未払割増賃金はないとして附帯控訴した。

ここでは、X事件の争点の1つとなった「残業代を算定する基礎となる月額賃金の額」を考察します。

まず1点目。

①固定残業手当(業務手当)が、労働基準法第36条第2項の規定に基づき労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年12月28日労働省告示第154号)所定の月45時間を超える時間外労働(具体的には、月当たり時間外労働70時間、深夜労働100時間)の対価として支給されていた点に関して、本告示にて定める月45時間という基準は「時間外労働の絶対的上限とは解されず、労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されない」。

ん。。。表現は難しい。。

また、少し、長いですね。まだまだ続きます。

ついてきてください。。

続いて2点目。

会社は「36協定において、月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項を無効とすべき事情は認められない」本件「固定残業手当(業務手当)が月45時間を超える」「時間外労働を目安としていたとしても、それによって」。本件「固定残業手当(業務手当)が違法になるとは認められない」。

特別条項は、無効ではない。固定残業手当(業務手当)が違法になるとは認められないって、ズバット言い切っています。

最後、3点目。

本件「固定残業手当(業務手当)が常に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定するものであるということはできないし」「仮に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働が行われたとしても、割増賃金支払業務は当然に発生するから、そのような場合の割増賃金の支払も含めて」「給与規程において定めたとしても、それが当然に無効になると解することはできない」。

ん。。。。うなってしまうかもしれませんが、給与規程で定めた固定残業手当(業務手当)は、無効になると解することはできないって。

そっかぁーて感じです。

このケースでは、設定された時間外労働の有無にかかわらず、すべての従業員に一律に本件固定残業手当(業務手当)が支給されています。

判決は、経営する店舗の営業日、営業時間との関係で、従業員の時間外労働や深夜労働が避けられない。

会社の業務態様に照らし、固定残業手当(業務手当)を支給することには合理性がある。

したがって、固定残業手当(業務手当)が、すべての従業員に一律に支給されていることをもって、定額の割増賃金といえないことにはならないと判断しています。

 


今後、固定残業代制度の実務のポイントとは?

本件においては、給与規程に定められたとおり、従業員に対して、固定残業手当(業務手当)を支給しています。

また、割増賃金が固定残業手当(業務手当)の金額を超えていた場合には、超過分(差額)を支給していた事実が認められています。

この事実が固定残業代の有効性の判断に与えた影響は、小さくありません。

あなたも、そう思いませんか?

私たちは、このチェックポイントは、決して忘れることはできません。

重要なポイントなので、3回繰り返し説明します。

固定残業手当(業務手当)の金額を超えた場合には、超過分(差額)を支給していた。

固定残業手当(業務手当)の金額を超えた場合には、超過分(差額)を支給していた。

固定残業手当(業務手当)の金額を超えた場合には、超過分(差額)を支給していた。

固定残業代制度の有効性に係る判断においては、従業員の実際の労働時間を把握し、超過分を支払う等適切な運用がなされていることが重要な要素となるといえます。


続いて、重要なポイントを、3回繰り返し説明します。

くど~いって?もう少し、お付き合いください。。

従業員の実際の労働時間を把握し、超過分を支払う等適切な運用は重要な要素である。

従業員の実際の労働時間を把握し、超過分を支払う等適切な運用は重要な要素である。

従業員の実際の労働時間を把握し、超過分を支払う等適切な運用は重要な要素である。

今後も、固定残業代制度の導入等に当たっては、時間外労働の把握や実際の運用方法等含めて、十分な検討を要します。

それは、いかなる場合に固定残業代が有効といえるのか、その具体的な要件については十分に明らかとなっていないからです。

運用する、会社側としては、難しいですよね。

本判決は、本件固定残業手当(業務手当)が、固定残業代の対象となる想定時間が明示されていませんでした。

それでも、①定額の割増賃金として有効であると認められた点、②限度其準を超える業務手当についても当然に無効とはいえないと判断した点においては、実務上参考になる判決です。

 

 X社ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件
時間外の限度基準45時間を超えている45時間を超えている
時間外労働時間月70時間の固定残業手当
月100時間の固定深夜割増手当
月95時間の固定残業手当
超過分(差額)支給不支給
判決違法になるとは認められない月45時間の固定残業手当の対象と解釈するのが相当

いかがですか?

今回は、時間外労働の限度基準を超えた固定残業手当(業務手当)が、違法になるとは認められないとされた事例でした。

違法になるとは認められない理由を、あなたは、理解できましたか?

ん。。。

引続き、一緒に勉強をしていきましょう。

社会保険労務士、渋谷区の高山英哲でした。
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