社会保険労務士,渋谷区の高山です。
今回は「飲食店店長の管理監督者性が否定された事例」である。具体的に言うと店長に対して月額10万円の「管理職手当」が支給されていた。
会社側はこの「管理職手当」を、時間外労働割増賃金83時間分相当の定額残業(固定残業)代として支給していたが、岐阜地裁は、これを認めなかった。
審判 | 一審(地方裁判所) |
裁判所名 | 岐阜地方裁判所 |
事件番号 | 平成26年(ワ)192号 |
裁判年月日 | 平成27年10月22日 |
裁判区分 | 判決 |
全文 | 稲穂事件(岐阜地方裁判所平成27年10月22日判決)PDF(Adobe Acrobat) |
法律 | 労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外) |
私の顧問先でも定額残業代制度を運用している会社がある。制度の構築、運用を協議し、就業規則、賃金規程へ反映させている。決して容易ではない。
課題を抱えながら、問題点をつぶし解決することは労力、知恵、実績、経験は不可欠だ。あなたの会社でも運用する場合、難題を抱えることがあるだろう。
そこで今回は私とあなたで、判例をふまえ飲食店の管理監督者の残業代の考えをリセットする方法をみつけていく。
誤解されまくっている定額残業代の真実、その姿とは?
最初にこの話をしないと、前にすすめないであろう。ここはしっかり押さえてくおくこと。定額残業代とは労働時間を計算し法律のとおり残業代を支払うのではなく、毎月固定的に定額の残業代を支払うことを言う。
例えば「1ヵ月定額3万円」というように、毎月固定的に支払う手当を「定額残業手当」と言う。しかしながら「定額残業手当」という制度が法的に存在しない。ここは誤解されいているから、忘れないでほしい。
このような「定額残業手当」を用いての支払い方法は、その「定額残業手当」の額が、実際に行われた時間外労働等に対し労基法上支払うべき割増賃金額を上回る限り、特に違法となるものではない。
とはいえ、労基法上支払うべき割増賃金額がその定額残業手当の額を上回るときは、その「差額」を支給しなければならない。多くの会社で「差額」を支給していない。これを怠ってはならない。
割増賃金は労基法24条2項の「毎月払いの原則」の規定の適用を受ける。そのため毎月決済する必要があるからだ。
つまり私が言いたいことはこうだ。
誤解されまくっている定額残業代で最も誤った運用方法は「残業の少ない月にも定額残業手当が支払われることを理由に、残業の多い月に「差額」を無視し定額残業手当の支払いだけで、済ますということはできない」。「定額残業手当」を支給している会社は絶対に、やってはならない。
定額残業代と管理監督者
誤解されまくっている定額残業代の真実、その姿は理解できた。考えてみれば当たり前ことだが、労基法上支払うべき割増賃金額がその定額残業手当の額を上回るときは、その「差額」を支給しなければならない。
そうすることで、労働者も「定額残業手当」の本質にも納得ができ、会社が適切に運用していることをを課す根拠にもなる。これは多くの会社が怠っている事由のため、あたなの会社でも振りかえって協議し見直しをしていただきたい
一方、管理監督者の要件はどうなのか。
続いて説明しよう。
本判決では店長が管理監督者といえるためには、次の3点の判断枠組みが必要だと示している。
①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか。
②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるかいなか。
③給与(基本給、役付手当等)および一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がなされているか。
考えればすぐわかるけど。優秀なあなたなら、こう思いついたかもしれない。
「職務内容、権限及び責任、勤務態様が労働時間等に対する規制、管理監督者にふさわしい待遇の全てに該当する店長は、いないっつうーのぉ」
あなたの考えは、正しい。私の周りではいない。探すほうが難しい。ゆえにリセットすることは簡単で定額残業代については「差額」を支払っているのか、いないか。
管理監督者は3要件に該当する、しないかを考察するだけである。このことから言えることは、ズバリ!店長に残業代を、原則支払うことになる。これはあなたでも、わかるだろう。
残業時間と36協定の関係
最後に判決にふれる。裁判所は、会社の残業時間と36協定について、2点こう言っている。
①83時間の残業は、36協定で定めることのできる労働時間の上限の月45時間の2倍に近い長時間だ。加えて「朝9時半以前及び、各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働に対しての残業手当」とされていることを勘案すると、相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって、公序良俗に違反するといわざるを得ない。
②店長が店舗開店前や、閉店時刻以降の残業はあまり考えられないと主張していることなどに照らすと「朝9時半以前及び、各店舗の閉店時刻以後に発生するかもしれない時間外労働」が、月83時間も発生することはそもそも想定しがたい。
このことから、会社の店長で、管理職手当(定額残業手当)として支給されている毎月10万円をみなし残業手当83時間相当として支給されるものとする旨の合意がされたということはできない。
管理職手当(定額残業手当)は時間外労働に対する手当として扱うべきではない。「月によって定められた賃金」(労基法施行規則19条4号)として、時間外労働等の割増賃金の基礎とすべきであるとした。
したがってあなたは、飲食店の管理監督者の残業代について、考え方を変えることが必要である。
審判 | 一審(地方裁判所) |
裁判所名 | 岐阜地方裁判所 |
事件番号 | 平成26年(ワ)192号 |
裁判年月日 | 平成27年10月22日 |
裁判区分 | 判決 |
全文 | 稲穂事件(岐阜地方裁判所平成27年10月22日判決)PDF(Adobe Acrobat) |
法律 | 労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外) |
社会保険労務士、渋谷区の高山英哲でした。
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