社会保険労務士,渋谷区の高山です。

こんにちは。

今回は「代償措置を講じることなく、退職後3年間にわたって競合企業に雇用されることや顧客との交渉等を広範囲に禁止する競業避止合意は認められるのか」といった判例である。

  デジタルパワーステーション事件 
審判一審(地方裁判所)
裁判所名東京地方裁判所
事件番号平成28年(ワ)52号
裁判年月日平成28年12月19日
裁判区分判決
全文デジタルパワーステーション事件(東京地裁平成28年12月19日判決)PDF(Adobe Acrobat)

従業員が退職後、競業会社で仕事をする場合が、ある。

あなたは、こう考えているかもしれない。

「だったら、入社時に従業員全員から【競業避止合意書】を提出させておけばいい」と。

確かに、その気持ちはわからないでも、ない。

そうしたことで、署名押印のうえ提出した「競業避止合意書」を根拠に、競業避止義務の不履行に基づき損害賠償請求をすることができるからだろう。

今回の判決も「会社と元従業員らとの間の競業避止合意が職業選択または営業の自由を不当に侵害するものであるのか」がポイントにとなった。

東京地方裁判所は会社と元従業員らとの間の競業避止合意書の職業選択または営業の自由を不当に侵害するものであり、公序良俗に反し無効であるとして、会社の請求を棄却した。

「早く解説して」そんな声も聞こえてきたので、早速ポイントをチェックしていく。

そもそも、競業避止義務の正体とは、なにか

そもそも競業避止義務とはなにか。

ズバリ!在職者、退職者が競業する事業を行ったり、使用者と競業する事業者に雇用されることを差し控えることをいう。

労働者にとっては、たまったもんじゃない。

義務と言われて困惑する者もいるだろう。

では、使用者がこのような義務を課す目的は何か。

端的に言えば、次の2点だ。

競業避止義務の目的 
競業避止義務の目的 ①使用者の専門的知識・技術の集積が競業他社に流出することを防ぐ秘こと
競業避止義務の目的 ②退職者の競業により自社の顧客を奪われることを防ぐこと

労働基準法、労働契約法などの労働緒法令のなかでの、残念なことに明確な根拠条文はない。

それぞれの事案で判断されることになる。これが厄介な点である。
 

在職者と退職者の競業避止義務の相違

競業避止義務は理解できた。

考えてみれば当たり前ことだが、在職者と退職者の場合で違いはあるのかも知りたくなる。

在職者については、就業規則などでの競業禁止(競業に限らず広く兼業が禁止されている場合もある)されていれば、就業規則上の規定が義務を課す根拠となる。

これは多くの会社の就業規則のなかで明示されている。念のため、あたなの会社の就業規則をみてもらいたい。

仮に就業規則の明示がない場合でも、労働契約の付随的な義務として、労働者は競業避止義務を負うと考えらるが、ない場合は早急に対処した方はがいい。

一方、退職者はどうなのか。

説明しょう。

退職者ついては、労働契約が終了しているから労働契約の付随的な義務は考えらない。

したがって、退職時の競業禁止誓約書など、当該義務を課す明示の根拠があることが原則として必要となる。

ただし元労働者の競業行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した場合は最高裁判決がある。

違法な態様で元の雇用者の顧客を奪取したとみられるようなケースでは明示の根拠がなくとも、その行為は元の雇用者に対する不法行為に当たるとして、損害賠償義務が肯定されることがあり得るとした例もある(三佳テック事件 最高裁一小 平22.3.25判決)。

ここも押さえておくこと。

職業選択の自由(憲法22条1項)と規定の3つの効力

ここまで読むと、あなたは、こう考えるだろう。

「じゃぁ、退職後の競業避止義務を定める誓約書や就業規則の規定の効力を無制限に認めてもいいのか」と。

その答えは、無理だ。

なぜならば憲法で保障されている職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害することになるから。

裁判では、このような規定の効力については3つの考慮要素から判断された。代償措置が講じられていない場合でも、直ちに競業避止合意の有効性が否定されるわけではないと。

①協業業避止を必要とする使用者の正当な利益の存否
②競業避止の範囲が合理的なものにとどまっているか
③代償措置の有無・内容等を総合的に考慮する

職業選択の自由が憲法上の権利であることから、合理的な制限の範囲内といえるか否かについては厳格に判断する裁判例が多い。

事例によっては判決も変わってくる。競業避止義務について今後どうするか。

競業避止合意書の内容はチェックをすること。文言を含めて、この作業を怠ってはならない。

ここまで、読んできたあなただったら、今回得た知識で可能だろう。

デジタルパワーステーションの判例、代償措置、憲法で保障されている職業選択の自由(憲法22条1項)などを踏まえ、社内でも協議しながらの運用を期待している。

  デジタルパワーステーション事件 
審判一審(地方裁判所)
裁判所名東京地方裁判所
事件番号平成28年(ワ)52号
裁判年月日平成28年12月19日
裁判区分判決
全文デジタルパワーステーション事件(東京地裁平成28年12月19日判決)PDF(Adobe Acrobat)

最後までお読みいただきありがとうございました。

社会保険労務士、渋谷区の高山英哲でした
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