渋谷区の社会保険労務士です。

こんにちは、高山英哲です。高山英哲

あなたと、今回学ぶことは「能力不足・勤務成績の不良を理由とする解雇が有効性」とされた判例である。

元マネージャーが、能力不足・勤務成績の不良を理由とする解雇を、不服として労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるとともに、賃金を仮に支払うことを求めた事案だ。

「解雇無効」の事案は、けっこうある。しかし、解雇から2年以上経過して賃金の仮払を含めての事案はないだろう。

私の事務所に「解雇」に関する相談は少なく、ない。

あなたの会社では、「解雇」どうだろうか?
管理監督者の能力不足、勤務成績での悩みを抱えたこともあるだろう。

そこで今回は、私たちで「元マネージャーが、能力不足・勤務成績の不良を理由とする解雇が有効」となった理由を、一緒に考えていく。

  コンチネンタル・オートモーティブ事件
審判二審(高等裁判所)
裁判所名東京高等裁判所
事件番号平成28年(ラ)51号
裁判年月日平成28年7月7日
裁判区分判決
全文コンチネンタル・オートモーティブ事件(東京高等裁判所,平成28年7月7日)PDF(Adobe Acrobat)

1.そもそも「能力不足での解雇」の正体、その姿とは?

そもそも「能力不足での解雇」の正体、その姿とは、何か。

あなたと、この事案を考えるに当たっては、2つの区分けで考えることとする。

ひとつ目は「新卒採用等、特別なスキル・役割・成果等を特定しない雇用」である。

そして、2つ目は「高度専門技術者等,特別なスキル一役割・成果等を特定した雇用」だ。

1-1 2つの区分けで考える、理由

2つの区分けで、考えるのは、なぜか?

それは、「新卒者等」労働者の場合は注意・指導・教育が必要であり、「高度専門技術者等」の労働者の場合は雇用契約の内容が重要だからである。

考えてみれば、あたり前だろぉーと言われてしまうかも、しれない。

例えば、入社20年以上の管理監督者に対して、注意・指導・教育は必要ないだろう。

一方、新卒者に対して、高度専門技術を求めることもない。

1-2 押さえておきたい「新卒採用」等特別な能力・役割・成果を特定しない雇用の場合

新卒者等の雇用は業務遂行能力については未知数だ。通常は長期安定雇用を前提とした雇用である。

ゆえに入社してから教育・訓練を経て会社の指示する業務に配置されるのが大半である。

この場合、勤務成績不良、能力不足という理由で、「いきなり」解雇することは許されない。

なぜか?

会社としても能力向上のための教育・訓練が求められるからだ。

業務遂行に問題があるという場合まず考慮すべきはその原因である。

例えば、本人の怠惰等本人側に原因があるのか、ないのか。

職場の人間関係に問題があるのか、ないのか。

会社の措置により改善の余地はあるのか、ないのか、といった点を検討し判断する必要がある。

特に改善向上の見込みがある場合には会社としては種々の措置を講じてみることが必要である。

このことは、解雇が有効とされたケースでは必要な注意・指導・教育を実施している例が多いことによっても裏付けられているといえる。

 

1-3 指導等を重ねても、なお、かつ改善がみられないときは?

実際には、不適当な業務遂行があった場合は現場の管理監督者がその都度、繰り返し注意・指導・教育するのが原則である。

あなたは、こう考えるだろう。

「指導を重ねても、改善がなかったら」
 
 「現状のままでは、将来に向かっても、改善は無理」

そうなったら、はじめて、解雇になる。

解雇理由も、明確に説明することとなる。そうすることで、本人の理解を得るようにすることが大切である。

段階的に、プロセスを踏むことが争いとなった場合等の際に解雇の合理性を説明するうえで重要となってくる。

ここは、押さえておきたい。

1-4 一方、高度専門技術者等,特別なスキル・役割・成果等を特定した雇用は、どう考える

一方、高度専門技術者等,特別なスキル・役割・成果等を特定した雇用の場合は、どう考えるか。

労働者の有する能力、経歴、経験に着目して労働契約を締結した場合である。

当該労働者が期待された能力・技能を発揮しなければ、一般の労働者以上に解雇が認められやすくなる傾向にある。

給与額をはじめ待遇だっていいから、仕方がないことだとも、いえる。

これは雇用契約上、その労働者に求められる能力・技能が特定され会社側もこれに見合った賃金を支払うという関係があるということだ。能力・技能を発揮できなければそれだけで重大な債務不履行に該当する。

会社からも「さよなら」と別れを、告げたくなる気持ちもわからなくは、ない。

そこで「高度専門技術者等,特別なスキル一役割・成果等を特定した雇用」は契約契約の内容がきわめて重要なものになってくる。

あなたも、この考えは、わかるであろう。

当該労働者に成果として「何か求められているのか」、これを可能な限り具体的に示す必要がある。さらに、書面等で明確に合意している場合、合意は雇用契約の内容になっているということができる。

これが達成されないことを理由としてなされる解雇は、合理的理由があり,社会通念上相当であるとして容認される可能性が大きいといえる。

2.こっそり、教える「解雇事由該当性」と「解雇権濫用法理」

あなたは、「能力不足での解雇」の正体を理解できた。

早速、判例をチェックしてみる。「解雇事由該当性」については、こうだ。

元マネージャーは提案業務(市場補償データの分析と調査による改善点の明確化と提案)を遂行する十分な能力はない。さらに成果もほとんどあがっていない。

加えて、勤務態度も反抗的というべき態度に終始していた。

あなたの、会社だったら、どういう行動をとるか。

能力不足で教えていたにもかかわらず、反抗的な態度をとったら。いきなり、解雇または退職勧奨をする場合もあるだろう。

勤務成績も不良から、就業規則71条3号の『業務能力また勤務成績が不適当と認めたとき』に当たるということができる」との原決定の判断を維持した。

また「解雇権濫用法理」は、このように示している。

元マネージャーは、高度の能力を評価された。ゆえに高額の賃金により中途採用された。しかしながら、報告書の作成技術もなかった。そのため上司は基礎的な教育や指導を行っていた。

報告書も作成できないって、これは、たまったもんじゃない。

本社転勤後は、元マネージャーに対し個別的な指導を行って能力の向上を図ろうとした。これに対して、元マネージャーは指示に素直に従わない。むしろ反抗的というべき態度に終始した。

マジっすかぁー。会社からしたら、勘弁してくれって感じでしょう。

管理職からの降格。会社は時間を費やし、意識改革を図るための機会は十分に付与した。それでも業務能力や勤務成績については今後も改善の余地がないと判断して本件解雇を行ったことについては合理性を欠くということはない。

よって、「本件解雇が解雇権の濫用に当たるということはできない」との原決定の判断を維持した。

これらの判断、私も、イエスだ。

3.押えておきたい!「保全の必要性」とは

最後に「保全の必要性」について、考えてみる。本決定は、賃金仮払仮処分の「保全の必要性」も否定した。

なぜか?

元マネージャーの次の世帯の収入などを認定のうえのでの、判断だった。

●不動産収入
●妻のアルバイト収
●世帯の資産(預金、株式)

標準生計費とも対照した上で判断している。

一番の理由は「本件解雇から本決定が発令されるまでの2年間に訴訟を提起することが可能な状態だったこと」を考慮している。

保全申立ては、本案訴訟による権利の回復が間に合わない場合に本案訴訟に先立って用いられる手段である。

このことから、解雇から2年たってから、賃金仮払仮処分の「保全の必要性」は、あり得ない、といことだろう。

最後まで、お読みいただきありがとうございました。

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審判二審(高等裁判所)
裁判所名東京高等裁判所
事件番号平成28年(ラ)51号
裁判年月日平成28年7月7日
裁判区分判決
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