渋谷区の社会保険労務士です。

高山英哲こんにちは、高山英哲です。久しぶりの投稿です。

2026年は2回目の投稿です。なんかワクワクします。。

「来月から大阪支社に転勤してほしい」――ある日突然、上司からこう告げられたら、あなたはどうしますか?

人事異動、特に勤務地や職務内容が変わる「配転」は、私たちのキャリアや生活に大きな影響を与える一大事です。

しかし、その法的なルールについては、「会社の命令は絶対」といった漠然としたイメージが先行し、正確な知識はあまり知られていません。

この記事では、人事・労務の専門家の解説に基づき、意外と知られていない人事異動(配転)をめぐる法的な新常識を5つのポイントに絞って解説します。

正しい知識は、いざという時にあなた自身を守る力になります。

 


ステップ1:原則、会社は異動を命じ放題? ――「契約」の重要性

まず大原則として、就業規則に配転を命じることができる旨の規定があれば、会社は従業員に対して異動を命じる幅広い権利(配転命令権)を持つとされています。

これは、長年の判例(東亜ペイント事件 最高裁判決)によって確立された考え方です。

しかし、この原則には重要な例外があります。それは職種や勤務地を限定する特別な合意(限定合意)が従業員と会社の間にある場合です。

この合意があれば、会社の配転命令権はその範囲内に制限され、合意を超えた異動命令は無効となります。

そして、この「契約」の重要性を決定的に高める、大きなルール変更がありました。

2024年4月に施行された改正労働基準法です。

これにより、会社は労働契約を結ぶ際に、雇入れ直後の就業場所や業務内容だけでなく、将来の「変更の範囲」についても明示することが義務化されました。

これは単なる書式の変更ではありません。

これまで曖昧にされがちだった将来の異動の可能性について、会社側が最初から手の内を明かすことを強制する、きわめて重要な変化です。

これにより、従業員は入社時点で自らの長期的なキャリアパスや働き方の範囲を明確に把握でき、後になって「こんなはずではなかった」と主張するための強力な根拠を手にすることになります。

ご自身の労働契約書が、キャリアを守るための羅針盤として、これまで以上に重要な意味を持つようになったのです。

 

ステップ2:育児や介護…「家庭の事情」は、どこまで通用する?

「幼い子どもがいる」「親の介護が必要」といった家庭の事情は、異動を拒否する理由になるのでしょうか。

かつての裁判例では、転勤によって単身赴任になったり、育児の負担が増えたりといった不利益は、「労働者が通常甘受すべき程度」の範囲内と判断される傾向にありました(ケンウッド事件 最高裁判決など)。

しかし、この考え方は大きく変化しています。この潮流は法律にも明記され、改正された育児・介護休業法では、会社が従業員の配置転換を行う際に、その従業員の育児や介護の状況に配慮することが明確に義務付けられました(26条)。

この法改正と社会の変化を反映するように、近年の裁判では育児や介護を理由に従業員側の主張を認め、転勤命令を無効としたケースも出てきています(明治図書出版事件、ネスレ日本事件など)。

この社会的な変化を的確に捉えた、ある法律専門書の一節を引用します。

「従前、裁判所において、通常甘受すべき程度の範囲内と評価されてきた転勤に伴う家庭上の不利益(単身赴”による妻子との別居等)について、使用者が社会の変容(女性の社会進出、夫婦共働き、夫の育児参加、夫婦や家族の一体性、単身赴任に対する国民意識の変化)に伴う十分な配慮をしていないと評価される場合には、通常甘受すべき程度を著しく超えるとされる余地もあり得よう。」

かつては「個人的な問題」と片付けられがちだった家庭の事情が、今や異動命令の有効性を左右する正当な要素として認識されつつあるのです。

 

ステップ3:その異動命令、実は「権利の濫用」かも

たとえ会社に配転命令権があり、契約書上の「変更の範囲」内であったとしても、その命令が無効になるケースがあります。それが「権利の濫用」にあたる場合です。

判例(東亜ペイント事件)では、以下の3つのいずれかに該当する場合、配転命令は権利の濫用として無効になるとされています。

• 業務上の必要性がない場合 会社の言う「必要性」は、判例で「労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点」が認められればよいとされており、かなり広く解釈されます。

しかし、会社の裁量が広いとはいえ、必要性がゼロであってはなりません。

例えば、全く合理的でない、あるいは嫌がらせとしか思えないような理由での異動は、この要件に該当し、権利濫用と判断される可能性があります。

• 不当な動機・目的がある場合 これは、いわゆる「報復人事」や「追い出し部屋」への異動などです。具体的には、会社に批判的な従業員を排除するため、退職勧奨を拒否したことへの見せしめ、労働組合活動の妨害、社内の不正を内部通報したことへの報復などが挙げられます。

• 著しく大きな不利益を与える場合 これは、異動によって従業員が「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を被る場合を指します。持病の悪化に直結するケースや、前述した育児・介護に深刻な支障をきたすケースなどがこれにあたります。従業員が負う不利益の大きさが、会社の業務上の必要性を上回る場合には、命令は無効とされる可能性があります。

ステップ4:異動を拒否したら即クビ?意外と知らない「その後」のプロセス

「有効な異動命令を拒否したら、即刻クビ(懲戒解雇)になる」と考えている方も多いかもしれませんが、これは誤解です。

たしかに、正当な理由なく有効な配転命令を拒否することは「業務命令違反」にあたります。

しかし、だからといって会社がすぐに最も重い処分である懲戒解雇に踏み切ることは、現実的ではありません。

そのような強硬な措置は、処分そのものが「懲戒権の濫用」と判断され、無効になるリスクが高いからです。

実務上、会社が取るべきプロセスはより段階的です。

1. まず、改めて配転命令に従うよう督促する。

2. それでも従業員が応じない場合、配転先で就労していないことを理由に給与の支払いを停止するなどの措置を講じる。

3. これらの手順を踏んでもなお状況が改善しない場合に、初めて懲戒処分を検討する。その際も、処分の重さは慎重に判断する必要がある。

つまり、「拒否=即解雇」という単純な構図ではないのです。

 

 

ステップ5:契約社員やパートは別?「正社員と同じ配転ルール」がNGな訳

では、有期契約労働者やパートタイム労働者といった、いわゆる非正規社員の場合はどうでしょうか。

結論から言うと、正社員の就業規則にあるような広範な配転規定を、そのまま非正規社員に適用することは不適切とされています。

その背景には、単に「そういう慣行だから」という以上の、重要な法的理由があります。

もし会社が非正規社員に対し、正社員と全く同じように全国転勤や無限定な職務変更を命じられる規定を設けた場合、それは「人材活用の仕組み(異動や昇進の範囲など)が正社員と同じである」と見なされる可能性があります。

そうなると、会社は「同一労働同一賃金」の原則に基づき、なぜ両者の基本給や手当に差があるのかを合理的に説明することが極めて困難になります。

これは会社にとって大きな法的リスクとなるため、非正規社員の配転ルールを限定的にせざるを得ないのです。

また、有期契約の場合は特に、契約期間中に契約書で定められた範囲を超える異動を命じるには、本人の明確な同意が必須となります。

 

最後に

人事異動をめぐるルールは、私たちが思っている以上に複雑で、時代とともに変化しています。

「会社の命令は絶対」と盲目的に信じ込むのは、もはや過去の常識です。

自身の労働契約の内容、権利の濫用という概念、そして育児や介護といった家庭の事情が持つ重要性を理解しておくことが、自らのキャリアと生活を守る上で不可欠です。

人事異動はキャリアの転機にもなり得ますが、人生を左右する一大事でもあります。まずは自身の労働契約書を改めて開き、「就業場所・業務の変更の範囲」がどう書かれているか、確認してみてはいかがでしょうか。

最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございました。

 渋谷の社会保険労務士の高山英哲でした。お客様皆様の声
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