渋谷区の社会保険労務士です。
こんにちは、高山英哲です。久しぶりの投稿です。
2026年は最初の投稿です。なんかワクワクします。。
建設業を営む事業主の皆様は、日々の業務に追われる中で、工事現場ごとの労災保険(労働者災害補償保険)の手続きを真摯に行われていることと思います。
現場での安全管理はもちろん、万が一の事故に備える保険の申告は、事業主として当然の責務です。
しかし、少し立ち止まって考えてみてください。
特定の工事現場に紐づかない業務、例えば自社の土場や資材置き場での重機メンテナンス、事務所での事務作業、あるいは見積もりのための現場確認など、これらの業務に対する労災保険は正しく処理されているでしょうか?
実は、この点に関する「よくある誤解」が、会計検査院による全国的な調査で明らかになりました。
この誤解が原因で、ある調査ではわずか5労働局管内の805事業者だけで合計7億7100万円、別の調査では4労働局管内の807事業者から約5億7000万円もの保険料が未徴収となっていた事実が発覚し、厚生労働省が改めて通達を出す事態にまで発展しています。
これは、多くの建設事業主が意図せず陥ってしまっている、見過ごされがちな重大なコンプライアンス・リスクであり、予期せぬ財務的負担に直結する問題なのです。
ステップ1:「事務所等の労災」は、事務員だけの話じゃない
「事務所等労災」という名称が、大きな誤解を生んでいます。
この言葉から「事務員のための保険」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、それは正しくありません。
実際には、事務職の従業員がいない場合でも、現場作業員が「特定の工事現場に付随しない業務」を行うのであれば、この保険関係を別途成立させる必要があります。
具体的には、以下のような作業が該当します。
• 事業として行わない除雪作業や、自社の修繕作業
これらの業務は、個別の工事(有期事業)とは切り離され、会社の事業活動全体の一部(継続事業)と見なされます。
そのため、工事現場ごとの保険とは別に、「事務所等労災」として継続事業の保険関係を成立させ、保険料を申告・納付する必要があるのです。

ステップ2:同じ場所・同じ作業でも、目的が違えば保険も違う?
極めて重要な点ですが、適用される保険は、その作業の「目的と背景」によって根本的に変わります。
この区別が、多くの事業者にとってコンプライアンス上の大きな落とし穴となっています。
典型的なシナリオを考えてみましょう。
下請B社に所属する作業員が、B社自身の資材置き場で、元請A社の工事現場で使用する資材の加工作業を行っているケースです。
この場合、作業場所は下請B社の敷地内ですが、作業の目的は「元請A社の特定の工事のため」です。
したがって、この作業中に発生した労災事故は、B社の「事務所等労災」(継続事業)ではなく、元請A社の工事現場の労災保険(有期事業)が適用されることになります。
この目的による区別こそが、下請事業者が意図せずコンプライアンス違反に陥る最大の要因です。
自社の敷地内での作業であっても、特定の元請工事に紐づく場合は元請の保険が適用されるという原則を、正確に理解しておく必要があります。
ステップ3:全国的な「間違い?」だった。会計検査院の指摘がすべての発端
この問題は、一部の事業主の勘違いではなく、全国規模の構造的な課題でした。
今回の厚生労働省による指導強化は、新しいルールが作られたわけではありません。
むしろ、以前からあったルールが、広く正しく理解・運用されていなかった実態を正すためのものです。
そのきっかけとなったのが、会計検査院による実地検査でした。
新聞報道によれば、ある調査ではわずか5労働局管内の805事業者だけで合計7億7100万円、別の調査では4労働局管内の807事業者から約5億7000万円もの保険料が徴収漏れとなっていたことが判明しました。
これは氷山の一角であり、全国で同様の事例が多数存在することを示唆しています。
なぜ、これほど広範囲に誤解が広がってしまったのでしょうか。
会計検査院は、その原因について次のように指摘しています。
会計検査院は、労働局において周知が不足していたこと、あるいは誤った認識のもとで周知を行っていたことが原因の一つであると指摘しています。
つまり、指導する側の行政機関ですら認識が不十分だったケースがあったということです。
事業主の皆様がこのルールを知らなかったとしても、ある意味では無理もなかったのかもしれません。
しかし、指摘がなされた今、すべての事業主は正しい運用への転換を求められています。
ステップ4:「日報がないから…」は通用しない?保険料計算の意外なルールとは
「現場作業と事務所作業の賃金を分けて記録していない」という事業主の方も多いでしょう。
日報や出面(でづら)で、個々の作業員の業務内容を厳密に区別してこなかった場合、どうやって保険料を計算すればよいのでしょうか。
この点について、行政は「推算」という方法を認めています。
これは、もし過去の賃金を正確に区分する資料がない場合、事業の実態に基づいて「特定の工事現場に付随しない業務」に従事した日数や時間数を見積もり、それに応じて賃金額を算出して保険料を計算する方法です。
ただし、これには重要な注意点があります。
この推算による計算はあくまで過去の記録がない場合のやむを得ない措置です。
今後の運用について、行政は事業主に対して「日報等に記録するなど、賃金総額が容易に把握できる資料を作成し、賃金台帳とともに保管する」よう指導しています。
これからは、業務内容に応じた賃金の管理体制を整えることが不可欠です。

ステップ5:もしもの時、手続漏れは大きな代償となる?
• まず、過去に遡って保険関係を成立させ、本来納めるべきだった保険料を支払わなければなりません。
• さらに、被災した労働者に支払われた労災保険の給付額(治療費や休業補償など)の全部または一部に相当する金額を、国から徴収される(費用徴収)ことがあります。
これは単なる追徴課税ではなく、労災給付の実費を直接負担させられる可能性を意味し、事故の規模によっては事業の資金繰りに深刻な影響を与えかねない重大な財務リスクです。

最後に:作業内容の洗い出しと保険関係の確認
最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございました。
渋谷の社会保険労務士の高山英哲でした。
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