渋谷区の社会保険労務士です。

高山英哲こんにちは、高山英哲です。久しぶりの投稿です。

2026年は2月3回目の投稿です。今回ももワクワクします。。

人事担当者や管理職にとって、「能力不足の社員」への対応は、避けては通れない、そして非常に悩ましいテーマの一つです。

しかし、この問題を単に「一人の社員の問題」と捉えるのは危険です。

場当たり的な指導で改善が見られない状況が続くと、その負担は周囲の社員に及び、結果としてチーム全体のモチベーション低下や、最悪の場合、優秀な人材の離職を招くことさえあります。

組織の健全性を蝕む前に、適切な対応が不可欠です。

かといって、安易に解雇に踏み切れば、後に訴訟へと発展し「解雇無効」の判断を下される法的リスクも潜んでいます。

多くの管理職が良かれと思って実践している対応が、実は法的な観点から見ると大きな落とし穴になっているケースは少なくありません。

今回のブログでは、様々な知見に基づき、多くの人が陥りがちな「避けては通れない考え方」を解説します。

これらの驚くべき落とし穴と、明日から実践できる具体的な対策を学ぶことで、貴社のリスク管理と組織の健全性を高める一助となれば幸いです。

 

 


ステップ1:「記録がない=事実はない」と心得る

 能力不足社員への対応を検討する際、現場の上長から「あの社員は指示を守らない」「提出物の質が低い」といった報告を受けることは日常茶飯事でしょう。

しかし、人事担当者や管理職がまず心に刻むべき大原則は、「記録の重要性」です。

具体的には、「いつ、どのような場面で、誰が、誰に対し、どのようなことを行い、そのために何が起こったのか」という「生の事実」を「5W1H」で具体的に記録する必要があります。

抽象的な報告では、法的な証拠としてほとんど意味をなしません。

なぜなら、法的紛争に発展した場合、次のように判断されるリスクが極めて高いからです。

法的紛失争になった場合、「記録がない事実は存在しない」と裁判で判断されてしまう可能性があるからです。

すべての記録は、いつか会社の事情を全く知らない第三者(裁判官など)が読むことを前提に作成すべきです。

この原則は単なる理論上の話ではありません。実際の裁判例(レスメド事件 東京地裁 令3.4.14判決)でも、会社側の主張する問題行動について「認めるに足りる証拠はない」と判断されています。

さらに重要なのは、記録は問題が発生してから「時間がそれほどたたないうちに」作成することです。

記憶は薄れ、時間の経過とともに記録の信憑性も低下するため、迅速な記録こそがすべての対応の出発点となります。

 

ステップ2:「例えば」なしの抽象的な注意指導は価値が低い

能力不足社員への対応は、まず口頭やメール(チャット含む)での注意指導から始め、それでも改善が見られなければ書面での注意指導に移行するのが一般的です。

しかし、その指導内容が抽象的であっては意味がありません。

「君は、このポジションの役割を果たしていない」「もっと主体的に動いてほしい」といった指摘は、言われた社員に問題点が具体的に伝わらないだけでなく、万が一の際に「会社は適切な指導を行った」と主張するための証拠としても非常に弱いのです。

これは、抽象的な評価は主観的な意見と見なされ、客観的な事実を求める第三者(裁判所)には響かないからです。

では、どうすれば価値のある指導になるのでしょうか。非常にシンプルかつ強力なテクニックがあります。

それは、「『例えば』という言葉を付けて注意指導する」ことです。

• 悪い注意指導の例: 「あなたの最近の業務遂行は、効率性と質において改善が必要です。」

• 良い注意指導の例: 「あなたは、期待された業務遂行ができていません。例えば、先週のA社向け提案資料作成において、本来は事前に私にドラフトを共有しフィードバックを受ける手順だったにもかかわらず、あなたはそれを怠り、誤ったデータを含んだまま期日ギリギリに提出しました。このように、あなたのこれまでの業務遂行は、効率性と質において改善が必要です。」

このように具体的なエピソード、つまり客観的な事実を交えて指摘することで、社員は何を改善すべきかを明確に理解できます。

そして、この「指導の記録」そのものが、会社が真摯に対応したことを示す、第三者にも伝わる強力な証拠となるのです。

 

ステップ3:様子見が裏目に?対応の先延ばしが解雇を難しくする

「会社のルールに違反して副業をしたら、懲戒処分(クビなど)になるのでは?」と心配する方も多いでしょう。

しかし、これも意外な事実ですが、「就業規則の副業禁止規定に違反した」という事実だけでは、有効な懲戒処分は下せません。

懲戒処分が法的に有効と認められるためには、「客観的に合理的な理由」と「社会的な相当性」の両方が必要です。

つまり、裁判所などでは、単なるルール違反という形式的な事実だけでなく、その副業が会社に「実質的な損害を与えたか」が厳しく見られます。

具体的には、裁判所が判断する「客観的に合理的な理由」とは、その副業が第2章で解説した4つのケースのいずれかに該当し、会社に実質的な不利益をもたらしたという事実を指します。

裁判実務においても、就業規則上の副業規制が形式的に適用されることはなく、労務提供上の支障や企業秩序への影響の抑止といった趣旨を勘案して、これらの観点で格別の支障がないものについては、そもそも副業規制の対象には該当しないものとする限定的な解釈が行われることが大勢を占めています。

ステップ4:能力不足による解雇は、客観的な証拠を収集し、納得させる必要がある?

 能力不足を理由とする解雇について、その法的な難易度を正しく認識している管理職は多くありません。

日本の労働法において、最も難しい解雇は「整理解雇」ですが、能力不足を理由とする解雇は、それに次いで「難しい」のです。

なぜそれほどまでに難しいのでしょうか。その理由は、「企業が行うビジネスに必ずしも精通していない第三者(裁判所)」を、客観的な証拠だけで納得させなければならないからです。

社内では「常識」とされる業務レベルや問題行動の深刻さも、第三者である裁判官には簡単には伝わりません。

だからこそ、誰が見ても「この社員の業務遂行には重大な問題があり、会社は改善のために十分な機会を与えたが、それでも改善されなかった」と理解できるだけの、具体的で客観的な証拠(記録)の積み重ねが不可欠となるのです。

 

最後に:明日からの行動を変える締めくくり

能力不足社員への効果的な対応は、場当たり的な感情論ではなく、具体的かつ記録に基づいた冷静なプロセスが不可欠です。

「記録がない事実は存在しない」という原則に始まり、抽象的な指摘を避けて「例えば」と具体的に指導すること、そして対応を先延ばしにせず適切なタイミングで行動することが求められます。

さらに、能力不足による解雇の難しさを理解し、PIPのようなツールは「成績の問題」に限定して正しく使う必要があります。

適切な対応は、法的リスクを回避するだけでなく、他の社員のモチベーションを守り、組織全体の生産性と健全性を維持するために不可欠です。

最後に、この記事を読んだあなたに問いかけます。

「あなたのチームのマネジメントは、万が一の事態に備えて『事実』を語れる状態になっていますか?」

 

最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございました。

 渋谷の社会保険労務士の高山英哲でした。お客様皆様の声
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